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【建築士つぶやく】杉板の外装材について思ふこと

建築士つぶやく 杉板の外装材について思ふこと 図面制作スタッフ

日本では、古来より外装材に採用されてきている杉板。日本の木材のなかで流通量が最も多く、地域に限らず入手できることから、長い歴史の中でも、この工法は消えることなく、現在の建築でも杉板を採用される例が日本各地で見ることが出来ます。

杉板の外壁は、メンテナンスも殆ど不要で、比較的安価、耐久性も高く、経年により味わい深くなっていく、そんな優れた材であるにもかかわらず、昨今では劣化しにくい材が普及し始め、なかなか採用されなくなってきています。

 

 

外壁の歴史を遡って見ますと、古来より長年寺社仏閣から住居まで幅広く使われてきた板張りの外壁ですが、火災に弱いことや、隙間風が入ってくることから、徐々に塗壁に変わっていくことになります。さらにそこから、現地で作る建築から、工場で作る建築へシフトされ、塗壁から工業製品のサイディング等のパネル系へと変化してきています。今や、住宅は杉板張りや塗壁の外壁は殆ど採用されなくなり、サイディングの外壁が一般的となっています。

サイディングは大量生産が可能で、コストを抑える事ができ、防火性や施工性に優れ、デザインも沢山のパターンが用意されていることから、大手ハウスメーカーの殆どが外壁にサイディングを採用しています。

ただ、サイディングは板張りや塗壁に感じられる暖かみに欠ける気がしてなりません。また、経年変化しずらい材です。一般的には、板張りや塗壁は古風なイメージがあり、大手ハウスメーカーが販売している住宅が最新のデザインと思い込んでいるだけかもしれません。板張りも、ディテールに拘ればスタイリッシュにデザインすることも可能です。何よりも経年変化を楽しめ、時間と共に熟成し風格が備わる外装材です。

今回は、そんな板張りを採用するにあたり、美しく保つポイント、法的処置、耐震安全性、環境配慮の観点より考察していきたいと思います。

 

 

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美しく保つには、雨や太陽の当たり方に注意

杉板材は、サイディングとは異なり経年変化していく材です。雨や太陽光により木材が変化していきます。外壁の一部分に庇や開口部の水切り等があれば、雨がかりになる部分と、そうでない部分では、変化のスピードが異なってきます。庇や開口部下の水切りのある部分は、経年変化のスピードが抑えられ、それ以外の部分は先に変化してしまいます。

それは外壁の足元周りでもよく見られます。足元周りは、雨が跳ね返り、一般部分よりも、余計に雨にさらされることになります。また、床面の蒸散される面からも近く乾燥しにくい場所になりますので、一般部に比べ、経年変化が早く進みます。

その異なった経年変化が隣り合うことで、板材の熟成が「劣化」に見えてしまいます。せっかく熟成してきているのに腐ってしまったかのように扱われ、非常にもったいなく感じます。そうならないよう、一様に変化し、自然な経年変化が楽しめるよう、庇や開口部のディテールを慎重に決める必要があります。それらを一番簡単に解決できる術は、深い庇の下で板張りを採用することです。日本の寺社仏閣建築は全て深い庇に守られ、長年板張りの外壁がメンテナンスされずに美しく保たれています。

深い庇が計画できない場合は、中途半端な開口部や庇、水切りの位置は十分に検討する必要があります。

雨や太陽が特に集中して当たる部分の有無、その集中して当たる部分が出来る場合の処置、見え方を工夫することで、ある程度は「劣化」と感じにくくする術はあります。例えば、綺麗な壁面に、やむを得ず開口部や水切りを計画する必要がある場合、集中して雨道となる部分とならない部分の境が分かりにくくするような、板張りの割り付けや厚みに変化をつけることで、面としての経年変化の差が感じにくくなります。

 

防火地域等で木材を使う方法

日本には、地域によって防火地域や準防火地域等、建物への防火性能の要求事項が建築基準法で定められています。主に、住宅等の建築物が近接して立地する都市部や、住居専用の住宅地にこれらの防火要求の法令が定まっています。それらの地域では、火災の延焼を防止するため、外壁材の防火措置が必要となってきます。要は、隣の家が燃えた場合、燃え移らない外壁にする必要があります。建築基準法では、木材は「可燃性」として扱いますので、もちろん上記のような防火地域等で外壁に使うことができません。

ただし、木材の外壁の下地に、延焼を防止する防火構造の壁を計画することで、木材を使用することが可能となります。(こちらは、国土交通大臣の認定仕様と、国土交通大臣が定める仕様で異なるため注意が必要)

外壁材として成立する木材の下地に、防火構造の外壁を施すことになると、外壁が2重となります。コストはその分高くなることになります。また、下地の通気性も考慮する必要があるため、壁厚も厚くなる方向です。

防火地域等の法的な規制がある場合は、外壁材として木材を使用するのは少しハードルが上がることになっています。その為、防火構造の認定を持っているサイディングは、それらの法的規制がかかる地域でも、それほどコストアップにならずに採用されることが多くなります。

 

耐震安全性でも板張りは有利

木材で構成される板張りは、材自体の柔軟性に加え、釘止めによる乾式工法で地震時の揺れに対して追従するような構造となっています。塗壁であれば、完全に固定されたもので、地震時の揺れに追従できずひび割れや外壁落下に直結致します。また、地震時の水平力は建物重量に影響を受けます。杉板は比較的軽量であり建物自体の重量を抑えてくれる為、建物自体にかかる地震力軽減にも寄与しています。

 

環境に配慮した外壁材

木は、二酸化炭素を吸収して育ち、建築に使われることで、二酸化炭素がそこで固定されます。さらに、製造エネルギーについてはCO2排出量が非常に少ない建築材です。また、適切に二酸化炭素を吸収する健全な森林を保つ為、木は間伐する必要があります。それらの二酸化炭素を吸収した間伐材を建築に使うことで、環境に対して非常に大きな貢献することになります。

 

まとめ

外壁材としては、少し古いイメージのある杉板張りで、美しく見せるコツは必要ですが、経済的で、耐震安全性も高く、環境にも配慮した外壁材です。うまくデザインすればサイディングより美しく見せることも可能です。

 

 

また、雨や太陽による劣化に対して、美しく保つ工夫を施すことで、何十年も経年を楽しむことも出来、年月が経てば経つほど建築を熟成させて、深い味わいの出てくる外壁材です。劣化しない新しい素材が次々に開発されてきますが、経年劣化を楽しむ杉材は、日本人の侘び寂びの感性に合った材であり、今後もなくなることのない外壁材であると思います。

 

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ニックネーム
one archi

現在の主な作業
一級建築士試験に一発合格し、組織設計事務所にて主に学校、公民館、道の駅、発電所等の幅広い用途の公共建築物の設計を行なっている。

自己紹介
芸術学部建築学科を卒業後、ハウスメーカーメーカーにて住宅の設計販売に携わる。一級建築士事務所開設を夢に、ハウスメーカーを退職し資格学校へ通うが、そこで現職場の先輩にスカウトされ組織設計事務所に所属する事になる。一級建築士の他に、インテリアプランナー、建築積算士、casbee評価員の有資格者である。2020年、実務経験と建築知識を活かして建築系のWEBライターとして始動。

 

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