住宅に限らず、公共施設や商業施設にも木質空間を上品に採用される例が増えてきているように感じます。
その空間に暖かみや落ち着き感をもたらしてくれることから、人の住まいである住宅のインテリアに採用されることが多く見られました。また、日本の住宅では裸足文化であることから、床材にフローリングが採用されやすいこと、住宅の規模から、法的な内装制限もかかりにくいこともあり、壁面及び天井面にも比較的容易に木材を採用することが可能となります。
公共施設については、法的な観点と、耐久性、メンテナンス性の観点より木材利用は進んでいませんでしたが、平成22年に「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」(平成22年法律第36号)が成立し、その時点から徐々に公共建築物にも木材が採用されるようになりました。公共建築物では、規模が住宅に比べ大きいことからインテリアにおける木材利用についても様々なデザインが試みられ、今や住宅での上質なインテリア空間に劣らないデザインのものも多くあります。
ただ、無闇矢鱈に木材を使用するといいかと言えば、そうではなく、その他の材とうまく組み合わせることや、木材の選び方や材の見せ方により、上品なインテリアに見せることができます。また、木材は火災に弱い材で建築基準法での規制もあり、使用は注意も必要です。
今回は木質空間について、法令的措置とそれらをクリアした美しい事例を見ながら解説していきたいと思います。
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法的クリアする木材利用
建築基準法では、規模や用途により内装制限(内装材に可燃性のものを使用できない制限)が規定されています。
それは、火災が発生したときに容易に燃え広がらないようにするためで、壁面・天井面への制限がかかることになります。ただし、床材については法的な内装制限はかかってきません。
床材は法的には制限がないため、木材が使用しやすい部位になりますが、土足利用の公共建築物の場合、耐久性面、メンテナンス面から床面への木材利用が懸念される傾向があります。
日本産の木材は比較的比重が低く、裸足には向いていますが、土足での耐久性面には向いていません、海外性の比重の高い硬質な木材(チークやオーク)が向いていますので、公共建築物の土足部分で採用されるも木材は海外性の耐久性の高い木材が多くなります。
公共建築物等における木材の利用に促進に関する法律については、日本の森林の手入れが十分に行われず、国土保全など森林の多面的機能の低下が大いに懸念されることから発足されていますので、海外性の木材を使用すれば本末転倒です。
そこで、法的制限のかかる公共建築物の壁面や天井面にも使用する方法がいくつかあります。
建築基準法告示1439号(平成12年)に、天井面の内装材を燃えにくい材(準不燃材)とすることで、壁面の内装材を可燃性の木材が利用できる緩和措置の記載があります。天井面で火災の拡大を防ぐことで、壁面を緩和させる法律です。
建築基準法令129条の2、令129条2の2の避難安全検証については、その計画施設内で火災が発生した場合の人の避難時間を計算するもので、在館者が火災時の煙に巻き込まれずに全員避難できれば、内装制限を緩和する法律です。天井高さが高い場合は、火災時の煙は天井上部での滞留時間が長くなり、その間に避難できるので有利となります。
火災時に、機的に火元をスプリンクラーにより制御し、煙を強制的に排出する設備を設置することで、内装制限を緩和させる方法です。
木材に薬液注入し、建築基準法上の不燃材や準不燃材に適合する木材とすることで、内装制限の必要な箇所にも木材(不燃化)を使用可能とした技術です。
これらの方法を使えば、法的制限からの緩和等を受けながら日本の木材を壁面、天井面に使用することが可能となり、最近では大規模な建築物で日本の木材を採用される場面が増えてきています。
日本的な伝統技法を用いたデザイン
壁面や天井面に面として板張りする木材利用は多く例が見られますが、下画像のような、釘を使わず組み手の伝統技法を使ったデザインも、視覚的効果に加え、木材使用量を増やす観点からも採用が増えてきています。
木材使用は、そのスティック状の組み手部分のみで、天井面、壁面、床面は落ち着いたグレー系とすることで、さらに木材のデザインが引き立っています。
木材を面として使う場合は、厚みは数十mm程度ですが、このように立体的に使用する場合は、木材の使用量も一気に増えることになり、視覚効果が高いだけでなく、環境にも配慮された建築です。
個人的には、ほろりのたかる部分が沢山でき、気になります。日々それらの清掃は大変だと思います。それは空調や換気の空気の流れにより解決しているのか不明です。
構造材の木をあらわす
建物規模が大きくなってきますと、構造体である柱や梁のサイズも大きくなってきます。住宅規模であれば、10センチ程度が一般的ですが、公共建築物になってきますと、10センチでは構造体力的に不足しますので、柱や梁の大きさは何倍にも大きくなってきます。それらの大きくなった構造体を積極的にあらわしで表現した例で、構造体の梁だけでなく、それらをうまく利用し、天井には梁と梁のあいだは、大きさの違う木材を並べることで、天井面に変化とリズム感があらわれます。
また、柱部分についても、柱と柱のあいだはガラスのみとし、大きな木材断面での重厚なイメージだけでなく、軽快で開放感のある素敵な空間が実現しています。
繊細な木材ルーバーで面をつくる
木材の平面や天井面利用は、板張りや合板張りが最も多い事例かと思います。板張りや合板張りの場合には、それぞれ材の定尺寸法があり、目地が必要となってきます。その目地はインテリア空間に大きな影響を与えることになりますので、慎重に目地の割り付けを計画することになります。
ただし、この例のように木材をルーバー状に計画することで、ルーバーに隠れてしまい認識できなくなり、木材ルーバーが一枚の美しい面として認識されます。視覚的に非常に効果的ですが、注意すべき点もあります。この例では木材ルーバーが縦方向に計画されています。縦方向にならんだルーバーは火災時に上部へ燃え広がりやすい形状となっています。何らかの燃え広がらない工夫も考える必要があります。
まとめ
木材は日本の風土で育まれてた材で、日本建築のインテリアに馴染み、人の心を落ち着かせるものだと思います。積極的にインテリアに組み入れて採用されれば良いなと思いますが、ただ単に木材を採用するのではなく、美しく、安全に組み入れたデザインが望まれます。木材は使い方によっては、くどくなり山小屋感が出てしまっている事例もよく見かけます。そうならないよう、他の材との組み合わせ方や、木材の見せ方を慎重に見極め、上品で美しい木質空間を実現していきたいと思います。
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one archi
現在の主な作業
一級建築士試験に一発合格し、組織設計事務所にて主に学校、公民館、道の駅、発電所等の幅広い用途の公共建築物の設計を行なっている。
自己紹介
芸術学部建築学科を卒業後、ハウスメーカーメーカーにて住宅の設計販売に携わる。一級建築士事務所開設を夢に、ハウスメーカーを退職し資格学校へ通うが、そこで現職場の先輩にスカウトされ組織設計事務所に所属する事になる。一級建築士の他に、インテリアプランナー、建築積算士、casbee評価員の有資格者である。2020年、実務経験と建築知識を活かして建築系のWEBライターとして始動。
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