建物に彩りを添える緑化は、建物の利用者や住まい手、周辺環境への修景となり癒しの効果を得ることができます。
建物のデザインが単調であっても、うまく緑化を組み合わせることで美しい外観デザインを得られることがあります。インテリアについても同様で、賃貸マンションや建売住宅等の床、壁、天井すべて汎用品での間取りであっても、植栽を取り入れることで各段とグレードの高いインテリアに見えることもあります。緑化は景観的な癒しの効果以外にも、温熱環境の制御に寄付する省エネルギー効果や、都市部のヒートアイランド現象の緩和効果等、得られるメリットはたくさんあります。
ただし、植栽は生き物であるがゆえに成長しすぎることによる建物や周辺環境へ悪影響を及ぼすこともあります。また、日当たりや雨がかからない計画により枯らしてしまい、逆に景観を損なうことも考えられます。
今回はそんな緑化について、地上部の緑化と建物緑化の2つの種類に分け、それぞれ緑化の効果、緑化の注意点等について解説していきたいと思います。
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地上部の緑化
地上部での緑化については、植物にとっても土壌、日当たり、程よい水分(雨や夜露)に恵まれる環境で、周辺環境への修景ともなり、比較的容易に高い効果を得られるのが特徴です。
地上部の緑化の効果として、修景を楽しむための植栽のほか、建物の東西方向への植栽の配置により、夏場の室内への直射日光の抑制効果を得られることがあります。その場合、冬場は逆にできる限り日光を室内に取り入れたいため、東西面に配置する植栽は、夏場にたくさん葉っぱをつけ、冬場は葉っぱを落とす落葉樹を選定すると効果的となります。
落葉樹の代表的な樹種としては、サクラ、モミジ、ケヤキ、アオダモ、サルスベリ、ヒメシャラなどがあります。それぞれ、成長スピードや花の有無、花が咲く時期、樹形、木肌の模様等特徴がありますので、その園庭の環境にあった樹種の選定が重要となります。
たとえば、ケヤキは樹形が非常に美しく、秋にはきれいな紅葉も楽しめる樹種で、公園や道路等の公共的な場所で採用されているのを見かけます。ただし、成長スピードも速く、非常に大きくなる樹種です。小さな庭に植えると、その庭以上の大きさとなり、隣の庭まではみ出したり、道路にはみ出し、周りに悪影響をあたえてしまいます。
また、サクラは日本的な樹種で、春には綺麗な花を咲かせ学校や河原でよく採用され、日本人には好まれる樹種ですが、花が散った春から夏、秋にかけて毛虫がたくさんつく樹種でもあります。建物近くで配置すると、洗濯物に毛虫がついたり、その毛虫を狙った小鳥の糞がついたりと住宅の用途の近くで採用するのはあまりお勧めできません。
住宅の園庭では、成長スピードが比較的遅く、比較的管理が容易な樹種が望まれます。
庭の木がすべて落葉樹となると、冬になると葉っぱが落ちて見た目が少し寂しくなります。1年中常に葉っぱを生い茂らせる常緑樹と組み合わせることで、冬場の修景も損ねない園庭となります。常緑樹は比較的葉っぱの色が濃い緑のものが多く、落葉樹の夏前の新芽の淡い緑の葉っぱで、常緑樹と落葉樹を組み合わせると、緑のグラデーションを楽しむこともできます。
常緑樹の代表的なものとしては、スギ、ヒノキ、マツ、ソヨゴ、シマトネリコ、オリーブ、ホンコンヤマボウシなどがあります。
これら常緑樹についても、落葉樹同様にそれぞれ特徴があり、その園庭の環境にあった選定が重要となります。
建物緑化
戸建て住宅だけでなく、公共建築や商業施設では昨今よくみられるようになってきました。これは、景観的な目的で計画されているだけでなく、その所管行政庁により、ある一定の規模の建築物には緑化基準が設けられている場合があり、その基準に順守するよう計画されている場合があります。
例えば、東京都では「東京における自然の保護と回復に関する条例」があり、1,000㎡以上の敷地で建築を行う場合、ある一定以上の緑化面積を確保するよう義務付けられています。
緑化の目的としては、「緑化の推進は自然の回復の基本であり、美しい景観を形成し、うるおいとやすらぎのある快適なまちづくりに重要な役割を果たしています。また、ヒートアイランド現象の緩和、大気の浄化、雨水の貯留等に大きな役割を果たしています。このため、今ある緑を守り育て、失われた緑をできる限り回復していくことが必要です」※1とあります。
※1東京都環境局緑化計画の手引き より
また、大阪府でも「建築物の敷地等における緑化を促進する制度」が定められており、1,000㎡以上の敷地における建築物の新築等を行う場合は、ある一定の緑化基準が適用されることとなっております。
制度の趣旨として「都市部における緑化の促進は、ヒートアイランド対策や都市の魅力向上といった課題解決に向けた有力な方策の一つです。しかし、都市部では地表面の多くが舗装や建築物などに覆われており、新たな緑化スペースの確保が非常に困難な状況です。このような状況を勘案し、平成18年4月に大阪府自然環境保全条例及び同条例施行規則を改正し、一定規模以上の敷地において建築物を新築、改築、増築する機会を捉えて、当該建築物やその敷地について緑化を義務付ける当制度を創設しました。」※2とあります。
※2大阪府建築物の敷地等における緑化を促進する制度 より
大阪府/建築物の敷地等における緑化を促進する制度 より
各行政庁でそれらの緑化基準が異なりますが、緑化の保護、ヒートアイランド現象の緩和、都市部の魅力向上等を目的として、ある一定以上の敷地面積で建築する場合、それらの緑化基準に適合させる必要があります。
それら緑化基準については、敷地に対して一定以上の緑化面積を確保するよう定められている場合が殆どですが、東京や大阪等の都市部での建築の場合、敷地に余裕がない場合が多く、必要とされる緑化面積を確保することが難しい場合があります。
その場合、敷地への緑化面積が確保できない分、建物へ緑化することで、それらの緑化基準で定められる緑化面積を満足するよう計画することになります。それら条例等で必要とされる緑化面積を確保する建築物への緑化として、壁面緑化や屋上緑化が有効な手段として採用されています。
壁面緑化の特徴は、視覚的に緑を最もわかりやすく感じられるところだと思います。規模の大きな建築の場合、特に周辺への視覚的効果は高く有効な手段となります。特に都市部での建物緑化は、コンクリートやアスファルトに覆われた敷地の中で、視覚的な癒しの効果だけでなく、植物からの浄化や植物への散水により涼しく感じられる効果もあります。
一方屋上緑化については、特に規模の大きな建物になると屋上広場にしない限り、視覚的な効果は見込めませんが、植物の浄化作用や散水によるヒートアイランド現象緩和への効果は考えられます。また、屋上を全面的に緑化するとなれば、植物の土壌が建物の断熱材となり、室内の空調負荷低減にも寄与します。
建物の壁面緑化や、屋上緑化については、景観への視覚的な効果だけでなく、ヒートアイランド現象緩和や、建物への空調負荷軽減等のメリットがありますが、技術的・経済的には不利となる点があります。まずは、建物に緑化する場合、その緑化の為の散水が必要となります。地上部の緑化であれば、雨水をある一定期間土壌に蓄えられますが、建物緑化の場合、蓄える土壌を確保することが難しく、機械的に散水することになります。
機械的に散水することになれば、水道管を建物各所に配置する必要があり、その水に対しての建物の防水措置が必要となります。また、散水機器や日々の水道料に対する経済的な負荷があります。建物緑化は、それらの技術的措置と経済的負荷のハードルを越えて実現されています。
まとめ
建築にたいして緑化は、景観上、環境配慮上、非常に重要な役割を持っております。人への癒し効果も高く、建物への環境負荷軽減だけでなく、周辺への環境負荷軽減にも寄与するもので、積極的に採用されることが望まれます。日本には、四季を彩る様々な樹種があります。それらを活かした建築緑化デザインも非常に美しいものがあります。なにより建築だけより、建築と緑が組み合わされると単純に美しいです。緑が感じられると心が豊かになる気がします。郊外の自然豊かな地域の緑を保護していくと共に、都市部にもっと緑の感じられる空間がたくさん出来れば、もっと魅力的な日本になるのではないかと考えています。
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one archi
現在の主な作業
一級建築士試験に一発合格し、組織設計事務所にて主に学校、公民館、道の駅、発電所等の幅広い用途の公共建築物の設計を行なっている。
自己紹介
芸術学部建築学科を卒業後、ハウスメーカーメーカーにて住宅の設計販売に携わる。一級建築士事務所開設を夢に、ハウスメーカーを退職し資格学校へ通うが、そこで現職場の先輩にスカウトされ組織設計事務所に所属する事になる。一級建築士の他に、インテリアプランナー、建築積算士、casbee評価員の有資格者である。2020年、実務経験と建築知識を活かして建築系のWEBライターとして始動。
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