消防署は、街の安全を見守る司令塔で、その街のシンボルにもなることから、建物のデザインに地域性や消防署らしさが表現されています。
消防署に求められる機能としては、防災拠点としての耐震安全性、長く使い続けられる耐久性とフレキシビリティ、24時間庁舎で過ごす職員にとっての快適な執務空間の形成があります。特に、防災拠点としての耐震安全性については、公共建築物の中でも最も高グレードな設計となり、免震構造や、制震構造の採用や、耐震構造の場合は通常の1.5倍の強度を持たせるような、震度7クラスの大地震が来ても建物が損傷せず維持運営できる構造となっております。そのため、一般的な建物に比べ、柱や梁のサイズがかなり大きめに作られることとなり、それらが表現された堅牢なデザインとなります。予算が高くなりますが、免震構造や制振構造が採用される場合は、建物自体への構造負担が少なくなるため、一般的な柱・梁のサイズ感となります。消防署のデザインが開放的な作りである場合は、免震構造や制振構造が採用されている可能性が高いことになります。
また、施設用途として象徴なデザイン要素となるのが、消防カラーである「赤」色が建物外装に使えることです。一般的には、建物の外装に「赤」色は使いにくい色です。特に公共建築物の場合、周辺環境に馴染み、落ち着いたデザインが求められますので、「赤」色はつかわれることはありません。唯一公共建築物の中で、消防署は「赤」を使うことで施設のイメージを表現し、街の司令塔としてのデザインを表現することになります。
今回はそんな消防署デザインについて、事例をいくつか解説していきたいと思います。
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消防署デザイン
広島市西消防署
外部と内部を区切る外装はすべてルーバーで覆われており、外部から内部が程よく透き通って見え、街に開かれたデザインとなっています。外観に線の細いルーバーを全面的に採用することで、透明感を表現するだけでなく、強固な構造的の存在を感じさせていません。夜になると、建物内部の明かりが街へルーバーをかえしたやさしい光で行燈のように照らされます。
内部も事務室や研修室もすべてガラス張りでかなり開放的なデザインです。展示スペースも充実していて、内部に訓練スペースが見ることが出来、来庁者にとっても、消防や防災について知識を気軽に深められる仕組みが出来ています。また、内部にプライバシーが必要な所については、赤い箱をつくることで、内外からも消防カラーの「赤」を感じられることができるデザインとなっています。
大船渡消防署住田分署
消防署のイメージとしては、「火事から人の命を守る」が先行し、建築的には不燃材である鉄骨造やRC造が固定概念として生まれがちですが、この大船渡消防署は木造で出来ています。
街の伝統的な風景を現代の技術と、地場の材料で組み上げた新しい木造建築ですが、木の構造体については、出来る限り金物をつかわず組み上げる伝統的な大工技術が詰め込まれています。金物を使わない伝統的な木造で作られることで、どこか懐かしさも感じられ、街の司令塔としての役割だけでなく、親近感や安心感も感じられる公共建築物となっています。
耐震性に対する構造についても、建物の揺れに対して木造の粘りで解決しており、用途・構造・意匠が美しく融合した建物です。
峡北広域行政事務組合新庁舎
シンプルな「119」サインで、建物の施設用途が容易に想像できるデザインです。1階部分に、建物の耐震性を持たせるRC造の強固な構造体をつくり、上階は開放感のある鉄骨造として建物の用途を成立させています。RC造の打放しと、サインを目立たせる為の黒色の外壁で重くなりがちな外観を、軒天に木材を採用することで、建物を見上げた時、温かみが感じられます。
消防車や救急車がはいる車庫にも、出入口部の軒天に木材が採用されています。軒天の木は外部方向への張られ方向性が感じられます。まさに消防車が出動する躍動感が増すように感じられます。
まとめ
消防署のデザインは、防災拠点としての建物性能を高く設定する必要がありデザインに制約が出てきますが、その中でもその制約をうまく活かしたデザインや、その制約を感じさせないデザインも実現出来ています。
特に、昨今では庁舎は街に開かれたものである考え方が浸透し、閉鎖的ではなく、透明感のあるデザインが望まれています。この相反する条件をうまく活かすことで、新しいデザインが生まれ、面白い建築が作られていきます。
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one archi
現在の主な作業
一級建築士試験に一発合格し、組織設計事務所にて主に学校、公民館、道の駅、発電所等の幅広い用途の公共建築物の設計を行なっている。
自己紹介
芸術学部建築学科を卒業後、ハウスメーカーメーカーにて住宅の設計販売に携わる。一級建築士事務所開設を夢に、ハウスメーカーを退職し資格学校へ通うが、そこで現職場の先輩にスカウトされ組織設計事務所に所属する事になる。一級建築士の他に、インテリアプランナー、建築積算士、casbee評価員の有資格者である。2020年、実務経験と建築知識を活かして建築系のWEBライターとして始動。
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