近年の建築デザインでは、伝統的な上下左右の整合性をあえて崩す「ずれて重なる」空間構成を採用している例を見かけることが多くなりました。一般的な建築では階段やエレベーターなどの垂直動線を基準に、各階の水平面を積み重ねるのが定石ですが、そこに“ずれ”をつくり出すことで新しい建築体験を提供しています。本記事では、そうした“重なり”や“オフセット”を利用した建築空間について、その特徴やメリットについて解説します。
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ずれて重なる建築とは
“ずれて重なる”建築とは、上階と下階の床や壁といった主要構造が完全に鉛直方向で重ならず、水平・斜め・さらには立面方向でずれを生み出しながら積層している建築を指します。主に次のような手法があります。
オフセット階層
各階フロアを同じ中心軸から少しずらして重ねることで、フロアごとに異なるデッキやバルコニーが生まれる。
スキップフロア
フロアの高さを半階ずつずらし、互いに視覚的・物理的につながりを持たせる構成。段差を利用しながら空間の立体的な広がりを演出できる。
斜めスラブ
水平方向ではなく、床や屋根を斜めに配置することで意図的に視線や導線を変化させるプラン。地形に合わせて建物を合わせる場合などに採用されることも多い。
ずれて重なる空間がもたらすメリット
フロアやボリュームがずれることで生まれる空間の特徴や利点を見ていきます。視線の馴染みやすさと程よいプライバシーの確保、バルコニーやテラスなどのユニークな屋外スペースの創出、そして光や風を効果的に取り入れる設計の工夫について解説します。
視線の馴染みやすさ・程よいプライバシー
フロアやボリューム同士がずれると、単純な層構成に比べて上下階や隣接空間との関係性が緩やかになります。視線を完全に切り離さずに、かつプライベートな空間を守る。住宅やオフィスなど、ある程度の繋がりと独立性が求められる用途に最適です。
ユニークな屋外スペースの創出
ずれによってフロアの一部が屋外にせり出すような構造をつくれば、その上階にバルコニーや屋上テラスを配置することが容易になります。建物全体がずれることで複数のレベルにバルコニーやスカイガーデンを持たせることも可能となり、多様な外部空間を得られます。
光や風の導入効果
単純なグリッドの重積ではなく、ずれがあることで採光や通風のルートが複雑化します。従来のプランでは光が届きにくい中央部や奥まった部屋に、斜めやオフセットした窓・天井から光を導きやすくなるのです。また、縦方向だけでなく横方向にも風の通り道を確保しやすいため、自然換気の向上が期待できます。
設計上の留意点
1. 構造計画の複雑化
ずれや斜め要素が増えるほど、荷重の伝達経路も複雑になります。梁・柱・耐力壁などの位置やサイズを慎重に計画し、地震や風荷重に対して安全性を確保する必要があります。構造技術者との綿密な協議が大切です。
2. 設備計画の難易度上昇
上下水道や空調ダクトなど、機能的要素の配管・配線ルートが複雑になる恐れがあります。オフセットがある場合は垂直シャフトをどのように貫通させるかが課題になりやすいため、BIM(Building Information Modeling)などの先進ツールを利用してクリアランスや経路を把握するとスムーズです。
3. コスト面の調整
一般的に、ずれや角度のある建物は部材の製作や施工が標準化されたものよりコストがかさむ傾向があります。設計段階から予算を念頭に置きつつ、必要な部分と簡略化できる部分を取捨選択してバランスをとることが重要です。
まとめ
ずれて重なる建築は、階層がずれ合うことで生まれる多様な空間演出や自然条件の取り込みをうまく活かした設計手法です。単なる高低差や角度が生み出す“遊び”だけでなく、視線や導線のやさしい分断、外部空間の効率活用など建築に多面的な価値をもたらします。
その一方で、構造や設備計画の複雑化、コスト上昇といった課題もあるため、計画初期から多職種と連携して検討を進める必要があります。都市の限られた敷地であっても、ずれを活用することでより快適で楽しい建築を生みだすことができるのは大きな魅力です。これからの住まいづくりや街づくりにおいても、「ずれて重なる」デザインは未来志向の有力な選択肢のひとつとなることでしょう。
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one archi
現在の主な作業
一級建築士試験に一発合格し、組織設計事務所にて主に学校、公民館、道の駅、発電所等の幅広い用途の公共建築物の設計を行なっている。
自己紹介
芸術学部建築学科を卒業後、ハウスメーカーメーカーにて住宅の設計販売に携わる。一級建築士事務所開設を夢に、ハウスメーカーを退職し資格学校へ通うが、そこで現職場の先輩にスカウトされ組織設計事務所に所属する事になる。一級建築士の他に、インテリアプランナー、建築積算士、casbee評価員の有資格者である。2020年、実務経験と建築知識を活かして建築系のWEBライターとして始動。
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